(副題:文化的共生の倫理と哲学)
授業概要
現代は、世界的市場の形成と情報化の中で、よい意味にせよ悪い意味にせよグローバル化・ボーダーレス化の急速な進行に直面しています。とりわけ地球環境の破壊などの負の問題に対しては誰もが危機感を強め、国境を越えた対話と対策が急務であることを自覚していることはいうまでもありません。しかしこうした危機感が世界的に共有されているにもかかわらず、国家間・民族間・宗教間・文化間の対立は依然として解消される気配がありません。世界的規模での破壊と連帯。この現実を踏まえたうえで本講義においては、複合的でありかつ根本的なディレンマを内包する社会状況における「共生」の可能性を、現代哲学が取り組まなければならない根本問題の一つとして、「文化」という観点のもとに検討します。
その際に本講義が手がかりとするのは、現代哲学の主要な源泉のひとつであるニーチェ思想です。制度と自己とを徹底的に対立させることによって生のあり方を根底から問い直した後期ニーチェの見解は、今日の状況を読み解くための重要な示唆を与えてくれるはずです。またニーチェ思想のほかに、ジャン=リュック・ナンシー、ジャック・デリダ、フランシス・フクヤマらの思想にも言及することで、現代哲学における他者論の広がりにも目を配る予定です。
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授業計画
講義はニーチェ等のテクストに依拠しながら、ときには映像資料も用いつつ、各回ごとにテーマを立てておこなわれます。
1.イントロダクション「ニーチェを辿る旅」
2. 映画『善悪の彼岸』(ニーチェ)
3.孤独(ニーチェ)
4.畜群――対話の不可避性と不可能性(ニーチェ)
5.優越願望と対等願望(フクヤマ)1
6.優越願望と対等願望(フクヤマ)2
7.優越願望と対等願望3――「世界にひとつだけの花」と
しての自己
8.多文化共生とは何か――価値の価値性を問う
9..なぜ携帯電話はうるさいのか
10. 対話の哲学
11.ユダヤをめぐる問い
12.神の死
13.「歓待」の思想――ホスピタリティの思想史的コンテク
ストと移民問題(デリダ)
14.「監獄」の他者性をめぐって(フーコー)
15.「侵入者」(ジャン=リュック・ナンシー)
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